マイクロバイオームという言葉は、いつ誰が定義をし、どういう意味ですか?

ノーベル生理学・医学賞を受賞したアメリカの分子生物学者ジョシュア・レダーバーグ等が2001年に発表した研究論文の中で、「マイクロバイオーム(微生物叢)」という言葉が初めて使われ「人間のマイクロバイオームとは常在菌、共生菌、病原性微生物の生態系コミュニティである」と定義されました。

人間は、何兆ものバクテリアや微生物の複雑な生態系(微生物のネットワーク)のホストであるというのは本当ですか?

はい、本当です!

私たちのマイクロバイオームに存在する微生物の数は、所説ありますが、100〜1000兆個あると言われており、その多くが腸内細菌です。

ヒトの細胞は約 60兆個と言われているので、人には自身の細胞よりも遥かに多くの微生物が共生していることになります。

また共生微生物の総質量は体の約1〜3%と言われており、体重60kgの人の場合、0.6〜1.8kgになります。

マイクロバイオームが最近になって注目されるようになったのはなぜですか?

その理由は主に2つあります。
1つは、「微生物に対する悪いイメージ」です。人は、微生物というと病原菌やカビ菌など人間の健康に害がある菌を思い浮かべ、除菌剤や抗生物質で除去すべき対象であるという考えが根強くありました。それが近年、乳酸菌などの人間の健康に有益な菌の活用に対するリテラシーが高まり、マイクロバイオームが注目されるようになりました。
もう1つは「技術的な課題の克服」です。マイクロバイオーム研究において、どのような菌がどのような役割を果たしているのかを分析する技術がありませんでした。最新の分子技術により、すべての微生物を分離し、それぞれが何に適しているかを研究することが可能になりました。そのような技術革新により、マイクロバイオームの考え方を化粧品などに応用することが可能になりました。

微生物は体のどこに住んでいますか?

微生物は、皮膚、口、膣、泌尿生殖路、気道、腸など体のすべての部分に生息しています。またそれぞれの箇所の湿度や温度などの環境により生息する微生物が異なります。

人はマイクロバイオームを生まれながらにして持っていますか?

生まれる前の人は、無菌状態です。産道を通る際に、母親に共生している微生物が新生児のあらゆる部分にコーティングのように付着するのが、人のマイクロバイオーム形成の最初のステップです。そして、父親、兄弟、祖父母など家族との接触、更には生活環境に存在する微生物を拾い上げ、マイクロバイオームを形成して行きます。所説ありますが、1~3歳までには、マイクロバイオームは微生物の生態系として完成すると言われています。

人それぞれのマイクロバイオームの違いは、各人の遺伝子の違いよりも大きいというのは本当ですか?

マイクロバイオームは人によって全く異なった生態系を形成しています。同じ環境で生活している家族のマイクロバイオームは似ている傾向があっても、全く同じではありません。その違いは、人の遺伝子の違いよりも大きいと言われています。微生物叢の大部分が存在する腸だけを見ても、ヒトゲノムの遺伝子が約2.2万存在するのに対してと比較して、共生微生物の遺伝子は330万存在すると報告されています。人それぞれのゲノムは実際のところ99.9%同一ですが、マイクロバイオームは、人によって最大80〜90%異なる場合があると言われています。

人間はマイクロバイオームなしでは健康を維持できないというのは本当でしょうか?

はい、本当です。マイクロバイオームは、ヒトの細胞とやり取りをしながら私たちの生理機能をコントロールしています。よって、共生微生物がなければ、人は必須栄養素を分解することも、免疫システムを抑制することもできません。更には最近の研究でマイクロバイオームは身体の健康にとどまらず、精神の状態にも影響を与えていると言われるようになっています。

マイクロバイオームのバランスが崩れるとアレルギーが引き起こされるというのは本当ですか?

はい、本当です。
アレルギー反応は、免疫システムの過剰反応によって起こります。共生微生物は私たちの免疫系に、どの細胞を駆逐、もしくは放置すればよいかを教えてくれます。このように免疫システムは、共生微生物の助けを借りて攻撃性と寛容性のバランスをとっているので、マイクロバイオームのバランスが崩れると私たちの体はあらゆる細胞物質に対して過剰に反応し、アレルギーや喘息を引き起こしてしまいます。

マイクロバイオームのバランスを整えるにはどうすれば良いですか?

最先端の研究で注目されているのが、プロバイオティクスとプレバイオティクスを活用した健康的なマイクロバイオームの形成です。
プロバイオティクスとは、人の健康にとって有益な微生物、いわゆる善玉菌です。プロバイオティクスの活用の代表例は、乳酸菌を摂取することによる腸内フローラの形成です。
プレバイオティクスとは、プロバイオティクス(善玉菌)のエサとなる活性成分のことです。プレバイオティクスをマイクロバイオームに投与することで、プロバイオティクスが増殖し、より健康なマイクロバイオームが形成されます。プレバイオティクスの代表例は、食物繊維やオリゴ糖です。これらは、大腸内のプロバイオティクスのエサとなるため、摂取をすることで、マイクロバイオームのバランスが整います。